専門家コラム
いま、採用される人について
今回は「いま、採用される人」をテーマにしてみました。採用される人についての考察というと、転職の場合、まず真っ先に求められる経験、いわゆる「採用スペック」の切り口からはいることが多いと思いますが、ここでは、テクノロジー面ではなく、求人票にはあまり記載されない人物面に着目し、企業が書類や面接でどんなことを探ろうとしているのか、とか、内定がでる人によく見られる特長について、私が思うことを書いてみます。
<細井智彦> 細井智彦事務所代表 転職コンサルタント 大手人材紹介会社にて20年以上転職相談や模擬面接などの面接指導に取り組む。企画し立ち上げた面接力向上セミナーは12万名以上が受講する人気セミナーとして現在も実施中。採用企業の面接官向けにも研修・講義を開発し、人事担当から経営者まで、360社、面接官4000人以上にアドバイスをしている。2016年3月に独立し、フリーな立場から、引き続き個人と企業の面接での機会創出に取り組んでいる。著書『転職面接必勝法(講談社)』ほか多数
はじめにお断りしておきますが、これから書く内容は特に調査をしたり、統計データを分析したりした結果ではありません。あくまでも日頃わたしが趣味として捜査していることから感じていることです。だから、こうですよ!という答えのようなものを伝えたいのではなく、みなさんにもこのテーマについて考えて欲しくて、このコラムがそのきっかけになればと思っております。特に、転職される方だけではなく、採用側の企業のみなさんにも、読んでいただき、いっしょに考えるきっかけにしていただけると嬉しいです。
採用する側とされる側の特長を重ねてみると共通点が見えてくる?
採用される人って、どんな人かを2つの視点から考えてみました。
- 企業側の採用要件「求める人材像」
- 「面接を通る人が備えている要素」
これらを重ねてみると、採用される要件を満たす人に備わっている行動特長のようなものや、採用側が求人票には載せていないこと、自覚すらしていないが実は面接場面で求めてしまう隠れた必須要件のようなものが炙り出されるはずです。さっそく考えてみましょう。
いまの求人は、欠員募集ではなく、新しいことを生み出すためであり生き残るため
まず、採用側の視点から。いま求める人材について。ここ数年、メーカー求人が日本で一番活況だったのは東海エリアです。自動車業界を中心にした需要が旺盛で東海の求人数を足すと日本中のエンジニアの総数よりも多くなるんじゃないかと思えるほどでした。ただ、昨年あたりから様子が変わってきて、ここにきてちょっと熱が冷めてきました。ただ、求人総数では冷えてきても、一部のポジションについては全くその熱は冷めるどころかヒートアップしているように感じます。それは、すでにみなさんもよくご承知の
- ADAS
- LiDAR
- CASE
- MaaS
といった自動車を取り巻く新しい技術や思想です。自動車単体としては電動化や自動運転を軸とした環境性能や高齢化などの状況のなかでの安全・安心の追求。あと、大きなうねりとしては自動車という完成品だけでとらえるのではなく、都市生活のなかの機能として、繋がり方から役割の見直し最適化をしようという動きがあります。
つまり既存事業の拡大とかグローバル化にともなう領域の求人は沈静化する一方で、こういった、新しいしくみを生み出す領域の求人はヒートアップしているということになります。これは自動車に限ったことではなく、メーカーが置かれている状況に共通して当てはまるといえると思います。
技術としてはハードよりもソフトウエア、特にメーカーの場合は組み込み系のハードを動かすためのソフトウエア開発のニーズは景気に関係なく沸騰中です。
ソフトウエアの開発スキルと同等以上に求められる力の存在
極端な話、突き抜けた天才だったら、人の話が聞けないような偏ったキャラクターでも欲しがられると思います。しかしながらそういった人間は大手といえども組織全員は必要なくて、ゼロからなにかを発明できる人は数名程度です。モノづくりをしているメーカーで大事なことは、天才が生み出しかけている要素をカタチにすることです。
生き残りといっても自走サバイバル力以上に繋ぐ力や合意形成力が求められる
いま先端の研究開発領域ではものすごいスピード感で仕事が回っています。と、同時に新しいことを実現し世に送り出せるようにするには、多くの部門や機関とのやりとりも発生します。例えばAIによる自動運転。自動車を無人で走らせるなんてことはだれも想定していなかったので、許認可を出すための基準もない状態からの立ち上げです。当然関わるのは、そのAIに制御させるあらゆる可動部品のハードウエア部門や会社と、それだけではなく官庁、行政や自治体、ひいては国によるレギュレーションの問題もあるので、世界規模でとらえるとそれこそ、とてもたくさんの部門や機関との調整が必要になってきます。それらは往々にして既存の取引先ではなく新しい人に向けたものであるのです。
新しい人に向けて働きかけたり繋ぐことができたり、それら様々な関係者との合意形成に向けて動ける人。これがいま求められる人物面での要件だと思っています。これらを、開発はエンジニア、合意形成に向けた調整はセールスエンジニアというように分業することもできるかもしれませんが、これだと伝言ゲームになることや時間のロスが生じてしまいます。だからエンジニアといえども、天才クリエイター以外は、自分の生み出そうとしているものを、周りに働きかけ、理解を得て合意形成する力がとても求められていると思うわけです。いま求められる合意形成力は根回し力ではない
ここで、注意しなければならないのは、ここでいう合意形成力とは、周りの人達とうまくやっていける協調性や、段取り根回し成功の素とばかりに、落としどころをさぐるような妥協点を見つけるようなものとは異なっているという点です。いま求められるのは、主張するのでもなく従うだけでもなく、これと思ったら、粘り強く働きかけができる、と同時に間違ったらすぐに修正する素直さの両方を兼ね備えていることです。ここを履き違えてしまいがちなミドルの方はくれぐれも気をつけてください。
経験が通用しない世界でミドルに求められるものとは?
実はいまソフトウェア経験者の求人ではミドルに対するニーズは高まっています。期待されるのは先に書いたような開発経験だけでなく、プロジェクトをまとめてきたキャリアを期待します。ただ、プロマネを経験していたミドルなら誰でもチャンスが増えているかといえば、そんなに甘いものじゃなくて、過去の成功体験を持っている人がそれを武器に乗り込んでいっても、先に書いたような顧客の厳しい要件に合わせるためにSE・プログラマーをやりくりしてただけや、根回しのようなマネジメントしかやってなければ、なかなか評価されません。
加えて、話はちょっと横道に逸れますが、いま大手メーカーは管理職層に対して「ハラスメント」撲滅に対してかなり真面目に取り組み始めていると思うのですが、ここでなぜ、この話題に触れるかといえば、管理職を経験したミドル層に対し、いままでのマネジメントスタイルが、たとえ業績を上げることができた成功体験だとしても、それが自分の経験や価値観を広めて実現した場合など画一的だと「ハラスメントをする可能性」を嗅ぎ取られてしまうこともあり得るからなのです。いまはメンバーの多様な価値観を受け入れながら、それぞれの持ち味を把握し、それに応じ最大限に活かさせることができるかどうか、がこれからのマネジメントには問われています。だから「私のマネジメントスタイルは褒めて伸ばすタイプです」なんて無邪気に言わないほうがいいということです。いまミドル層のみなさんが転職を考える際にはぜひ、能動的な働きかけや合意形成の経験とメンバーの個性を活かすマネジメント手法を磨くこと、それと決まった仕様を追求するのではなく臨機応変に対応しながら開発するアジャイル的な思想をもった取り組みの磨き込みをお勧めします。