専門家コラム
【連載企画】転職活動にともなう10の不安との付き合い方 第1回
今回は、転職活動につきものの不安との付き合い方について、連載企画として複数回に渡って記します。「転職活動が上手く行くか不安」「転職したいけど一歩踏み出せない」など転職活動に不安はつきものです。今回のコラムはそんな方にぜひお読みいただきたいのですが、実はこのタイトルを見て「あ、私は大丈夫、不安特にないし。」という方にこそ読んで欲しいと思ってます。
<細井智彦> 細井智彦事務所代表 転職コンサルタント 大手人材紹介会社にて20年以上転職相談や模擬面接などの面接指導に取り組む。企画し立ち上げた面接力向上セミナーは12万名以上が受講する人気セミナーとして現在も実施中。採用企業の面接官向けにも研修・講義を開発し、人事担当から経営者まで、360社、面接官4000人以上にアドバイスをしている。2016年3月に独立し、フリーな立場から、引き続き個人と企業の面接での機会創出に取り組んでいる。著書『転職面接必勝法(講談社)』ほか多数
目次
1.不安がない、と思っている人は、気づいていないだけの可能性がある。
2.今回の連載で取り上げる10+1の転職活動における不安
3.「不安」は始めに想定し、潰していくのが転職成功のカギ
4.「不安やストレスはないのがいい。」のではなく「付き合えることがいい。」
不安がない、と思っている人は、気づいていないだけの可能性がある。
「転職にあたってなにか不安はありますか?」
と問われたら、みなさんならどう回答しますか?
そりゃありますよ、という人とそんなに不安はないかも、という人に分かれるのですが、結論から言うと、不安は活動初期の段階から抱いておかれたほうが活動を進めるには都合がよい、と思います。
不安がある人からみたら、不安のない人は羨ましく見えるかもしれません。確かにそのとおりなのですが、実は転職活動を始めたときには、あまり自覚する不安がない人も、進めていくうちに不安が芽生えることがあります。
自分の中の不安に気付くのが遅い人
例えば、大手企業で活躍されており転職エージェントとの転職相談も自信にあふれており、
「いまの職場では成長できない。だからもっと成長を実感できるスピード感のあるところで働きたい!」というストーリーが明確な方は、面接も乗り切って順調に内定を勝ち取られることが多いものです。しかし、順風満帆に進んでいざ転職がいよいよ現実になると「いままでの成功体験を投げうって、新しいところに飛び込んで、本当に通用するのだろうか」とか「上司や周囲の人たちとの人間関係はうまくいくのだろうか」「居場所は作れそうか」など、むくむくと「不安」という名の暗雲が、頭という空にたちこめて悩みはじめる人は少なくありません。これは、不安がなかったのではなく、不安に気づくのが遅かったわけです。
実はこれ、転職活動に限ったことではありません。
結婚や移住などライフイベントの節目や、大きく自分のなにかを変えようとするとき、なんとかなるだろう、と思って事に臨む人の場合、最初のころは、不安と言われてもピンと来ないことが多いものです。実は私もその傾向があって、小さいときから、おもちゃをいじりたおして壊してしまった時や、高校生のときにバイクで事故した時などで、親に「お前は行き着くところまでいって物事を起こしてしまってからでないと、事の重大さに気づけない」と怒られながら育ちました。
今回の連載で取り上げる10+1の転職活動における不安
それはさておき、今回の連載で取り上げる予定の不安の一覧は以下の10+1です。
不安のない人もぜひ目を通していただいて、これから先気になりそうなことはないか、ぜひ自分に問いかけてみてください。
1:信用不安
「騙された」「話と違った」「見抜けなかった」
仕事内容、教育、設備、残業・休日、反社会、倒産危険など、転職先が思っていたのと違ったらどうしようという不安について
2:適合不安
「居場所あるか」「受け容れられるか」「受け容れることができるか」
転職先の拘束度・自由度、価値観や方針、社長の強い個性らとつきあえるかなど
3:ハラスメント不安
セクハラ パワハラの可能性に対する不安
4:通用するか不安
自分の経験や能力が活かせるか、ついていけるかという不安
5:やりがい不安
モチベーションを持てるか、続けられそうか、やりがいを感じることができる仕事か
6:他にないか不安
スカウトメールですぐに内定ゲットしたけど、このまま活動を終了してもいのだろうか・・・
7:自分の判断に自信がもてない不安 これでいいのか
判断材料がない、判断できない、エージェントに言われるまま活動してて大丈夫なのか
8:メンタル不全不安
孤独な転職活動、書類・面接での不採用
9:合意してもらえるか、退職交渉不安
現職の退職交渉が上手く行くか、家族の賛成は得られるか
10:背徳不安
お世話になった上司への申し訳なさや、会社に隠しながらの活動への不安、競合への転職
11:感染不安
ゆるすぎる職場、危機感ない組織・メンバーからの悪影響を受けるモラル低下不安
「不安」は始めに想定し、潰していくのが転職成功のカギ
いかがですか。全然気にならない人は、このコラムは不要です。ただ、もしひとつでも気になったら、この機会に自分と向き合ってみて欲しいです。なぜかというと、先に「不安」を抱えていると、それをチェックし、潰しながら活動を進められるので、内定が出て、決断する時点では踏み切りやすい状態になれるからです。一方で不安を想定しないまま、勢いで活動を進めてしまうと、いざ決断するシーンで不安がムクムク湧き上がってきてしまい、判断するのに悩みがちです。場合によっては軽い思考停止状態で、面倒になって内定は辞退し現職に留まるようなこともあります。
リスクマネジメントの基本は「最悪を想定し、ことに及ぶ際には最良をイメージして動く」ということですが、不安なんてない、と思っていても本当にないのか、実はあるのに気づいていないのか、どちらかを自分で見極めておかないと、後から、自分は後者だった、と気づいても、ここからあらためて不安を潰しにいくことになると、労力と精神的な負荷が最後の最後で大きくかかってしまうことになります。
「不安やストレスはないのがいい。」のではなく「付き合えることがいい。」
ちなみに、面接場面でストレス耐性はどのようにチェックされているかというと「ストレスに強いか・ストレスを感じやすいか」よりも「ストレスと付き合えるか」を見られます。これを『コーピング(対処=copingから由来)』と言います。ストレスを感じたり、不安な精神状態にある自分を「弱い」と否定せず、自己を受け入れてどう付き合うかを考える、不安を持つ自分を受け容れ、不安をストレスと向き合い乗り越えるエネルギーに転用していくことが、転職活動を進めるためには大事なことなのです。
転職に不安がない、と思っている人も、それは「本当にない」とは限りません。
ない、という自分でありたいのか、気づいていないだけ、のこともあります。
だから、いまは不安の感情がなかっても、これからどうなるか、先を予測して、いまから気になることをシミュレーションしながら活動を進めてみることをオススメします。
次回から、転職活動にともなう10+1の不安それぞれとどう向き合うべきか、について記していきます。