企業インタビュー
[ 株式会社村田製作所 ]
村田製作所が実現する モノづくりDXの本質に迫る~CPS(サイバーフィジカルシステム)の構築~
モノづくり統括部 モノづくり強化推進部 情報活用推進課 シニアマネージャー 後藤 孔明様
01. 自己紹介
〇自己紹介をお願いします。
私の部は、モノづくり全体の統括を担う部門です。モノづくりというのは村田製作所では工場の製造現場を示します。その中で私は、情報活用推進課を担当しており、データを用いて製造現場を変革することを推進する役割を担っています。
02. CPS構築の取り組みについて
〇まさにモノづくり分野のDXを担われている部署ですね。2024年度はどんな取り組みをされていますか?
村田製作所では、これまでもAIやIoT、ロボティクスなどを用いて工場をスマート化していく取り組み(スマートファクトリー)に注力してきました。そのステップを経て、モノづくりのDXへとシフトしています。モノづくりのDXを進めるにあたっては、お客様に提供する価値を増大させるためにはどうすれば良いか、事業が成長し生産性が向上するには何をすべきか、などの本来の目的に立ち返り、取り組みの整理や見直しを行っていくというフェーズに入っています。
その中で私の課は、モノづくり領域のサイバーフィジカルシステム(以下、CPS)の構築に取り組んでいます。CPSというのは現実の空間(フィジカル空間)で収集し蓄積したデータを、サイバーで共通化し、リアルタイムに活用するシステムを構築することを意味しています。
〇CPS構築について、初心者にも分かりやすいように解説をお願いします。
大きく分けて2つの役割があります。
1つは、熟練の技術者がやっていることをCPSが代替する役割です。村田製作所はモノづくり力に強みがありますが、現場では熟練が製品の状況を確認し、多数ある品種それぞれに対応した状況や経験に基づいて、出来栄えの予測や不具合の要因是正を高いレベルで行っています。この経験や状況把握力は品質を担保するための重要な要素になります。その熟練の観点をAIに学習させ、センサやカメラなどセンシングと組み合わせ、熟練の把握力を再現します。
もう1つはモノづくりの状況をデータ化し、モデル化することでリアルタイムに制御する事です。製品の品質は材料、生産プロセス、設備などの各状況の組み合わせで決まります。その重要な部分がデータ化されており、この組み合わせだとこの品質になるという過去経験をひも解くと、数値モデルにすることができます。そのモデルをサイバー側に作っておけば、工程の生産状況データをインプットすることで製品の品質の予測が可能になり、リアルタイムで製品品質を自律制御することができるようになります。
このようなステップを経ることで、人を介さず自動で熟練と同様の現場把握ができ、かつ工程を最適化することが出来ます。これがモノづくりのCPSのイメージです。
CPSの構築で重要になるのは、実際に現場で熟練の方が行っているモノづくりの取り組みをしっかりヒアリングし、その観点や知見を把握することです。熟練の視点を理解し、見ている数値や画像を活用できる形でサイバーに渡しシステム化する事が、私の課の大変重要な役割です。
〇課のメンバーはどのように役割分担されているのでしょうか?
いくつかの分野の観点があります。
まずは、事業軸や商品軸です。事業や商品の違いにより、モノづくりで重要なポイントが異なるためです。モノづくりの内容を理解していないと熟練が感じるポイントや、データ化すべきポイントの勘所が働かないハードルがあるためです。 もう一つ、デジタル技術の専門性のすみわけがあります。デジタルを用いて製造現場の課題を解決する全体企画の担当、データサイエンスの担当、システム化やIoTの知識に精通する担当など、DXの分野の専門性も分かれています。この二つの観点で担当や役割分担が決まりますが、課内でうまくコラボレートしながら進めています。
03. 課題について
〇CPS構築に取り組まれる中で何か課題はありますか?
村田製作所の特徴として、各工場の現場に実力があり主体性的に取り組みを進める風土を持っています。先ほど説明したCPS構築においても、現場で蓄積したナレッジをデータ化、システム化する活動を、現場が自律的に推進する実力を持っている場合も多いです。またAIや新技術の効果検証を率先して現場主体で行っています。
それを踏まえた上での課題として、各工場、現場が個別最適でシステムを構築してしまうと、全社的な方向性とずれる、全社の基幹システムとの相性が悪くなってしまう、などの課題が生じる可能性があります。全社の立場で各工場と連携することが私の課の役割で、各工場で取り組みをリードするキーマンとコミュニケーションしながら目指す方向を合わせ、各現場も良くなり、同時に村田製作所全体が良くなる様な推進を行う必要があります。
〇各現場の改善と全社最適の両立を実現する難しさはどのようなところに感じられていますか?
大きく分けて2つの難しさを感じています。
まず、全社的にDXの気運が高まっています。全社のDXを推進する立場として、方向性・指針を示すことを各現場に求められており、同時にその必要もあると感じています。そのためには世の中のトレンド、他社の取り組みや技術の動向をキャッチして、各工場に展開することが重要です。
この課題に対しては、課のメンバー自身が社外の情報や現場の情報を広くキャッチし、DXの方向付けが出来るような機会づくりと成長を促すことで、対応していきたいと考えています。私の課は若いメンバーが多いですが、早い段階から各工場の大きな課題に対応する機会を、意図して作っています。
もう1つの難しさはスピードです。各工場はお客様に提供する価値を高めたい、生産性を高めたい、などのテーマを抱えており、DXのアプローチで早く解決したいという要望を持っています。商品や事業によって課題が異なるため、単に全社統一の指針を出せば解決するわけではありません。それぞれのテーマにスピーディーに対応していく必要があります。
この課題に対しては、村田製作所の組織連携・風土のスタイルが活きてくると考えています。村田製作所の強みとして本社と現場の関係が近く、本社も各工場も村田製作所として共同体だ、という風土の元に連携しています。課のメンバーが個の力を高め、現場のモノづくりの熟練のメンバーと連携する。そういった形で乗り越えていけると考えています。
〇トレンドの技術のキャッチアップや情報収集はどのようにされていますか?
村田製作所の中にはデータサイエンスやAI・IoTの技術そのものを研究・開発している本社組織があります。私の課と普段からコミュニケーションしており、モノづくりのDXに活用しやすい技術テーマを遂行しているため、速やかな連携が可能です。そういった連携の中で、生成AI、量子コンピューティングなど、要素技術的かつ最新の情報もキャッチアップしています。
また、大学との連携や展示会や学会への参加も積極的に行っています。DX推進を効率よく進めている他社とは定期的に交流の場を持ち、双方の具体的事例を共有するなどしています。
〇数多くの拠点があるので、個別に対応するのは大変ではないですか?
製造拠点は国内外合わせて、約40〜50拠点と数多くあります。課題の大きさに応じて優先順位をつけつつ対応しています。全社の経営方針や事業部方針との兼ね合い、お客様からの要望の強さなどを勘案し、連携の仕方を合わせて行く形です。 連携の仕方としても他拠点の取り組みでアウトプットされたものが、その拠点の課題にミートするようであれば紹介しつつ導入のノウハウを伝えるなど、拠点の状況に合わせた支援をとっています。
04. モノづくりDXの今後
〇今後目指しておられる村田のモノづくりDXの姿はどのようなものでしょうか?
業務の川上、工法開発や商品設計から製造までの業務全体を構想してCPSを作っていく、ということが最終的にやりたいDXのイメージです。
私たちは製造現場を対象としていますが、現場で生産性を上げる、製品の品質を良くするための課題は、突き詰めて行くと川上の商品企画や設計の部分を変革すべき課題である場合もあります。
モノづくりのCPSは、短期的には製造現場のモノづくりを高めるためのシステムですが、現場で獲得されたモノづくりを高める上でのポイントや失敗の経験というナレッジを、開発や設計を行うメンバーと共通で使えるようなシステムに発展させていきたいと考えています。
もちろん現場でしか獲得できない大事なノウハウや、解決できない問題点も多くありますが、現場を更に良くしようと考えると、現場単独では実現できない事も多いです。業務の流れを広く捉え、各組織の業務をつなげていくことが、本質的なモノづくりのDXになると考えています。
〇すでに商品開発と生産技術では強固に連携されている印象ですが、今後はさらにITの知識も入り、全体のDXが進められるイメージですね。
我々の課の隣に生産技術の統括部組織があり、設備開発や現場導入を行っています。DXを意識した将来の設備を検討する上で、設備からこのようにデータを取りたい、設備をこのように制御したい、などのニーズを伝えやすいという強みがあります。DXを行う上ではデータが命になるので、このような関係性は非常に強みです。
〇現場に行く頻度は多いですか?
これまでにお伝えしたように、現場の把握は非常に大事です。私の課にとって経験の少ない商品に関わる際やプロジェクトのキックオフ当初など、現場の状況をしっかりと把握すべきタイミングでは1、2週間と現場に入り浸ることもあります。実際の現場を見て、製造技術や製造監督者、現場の生産技術の方々と関係性を築くのが重要です。 一方で関係性が出来てしまえば、本社からのリモートワークでも「このデータがこういったことを示唆しているので、確認してほしい!」といった具体的なポイントを押さえた会話ができます。プロジェクトによって差がありますが、関係性ができた後は基本的にリモートでやり取りし、要所で現場に出向くことが多いです。
〇やはり現場と本社に壁がない様子が伺えますね。
現場から私の課のメンバーに、うちの現場に来てほしい、連携したい、というオファーをよくもらいます。現場に信頼してもらっている証拠だと思います。一緒にプロジェクトを進める仲間としてお互いに分け立てなく接しています。 もちろん本社の組織なので、全体をしっかり統括して欲しいという期待も感じます。同時に現場は連携を通じて成長し、自律的に推進したいという責任感を持っていることも感じます。そこに壁があるというよりは、それぞれの役割や責任が違う、という感じですね。
05. 求める人材について
〇DX推進という観点で活躍されている方はどんな方ですか?
私は、DXを通じてこれまでに無い価値を出そうとする際、これまでの役割前提で話をしないことが重要だと感じます。そういった意味で活躍している人は、自分の役割はここまで、などと線を引かずに周辺の組織に対し働きかけを行う人。また、最終的に現場に価値を出すにはどうすべきか、という俯瞰したものの考え方や、視点を持っている方が多いと感じます。
加えてデータやシステムの活用に対して知識が豊富で、業務イメージを高い視点でとらえた後に、システムをどのように構築すべきか、データをどのように業務活用すべきか、といった順番で考えを示せる方が活躍し、評価されている印象受けます。
〇キャリア入社された方はどのようにキャッチアップされているのでしょうか?
様々な拠点や製品を対象にする私の課ですが、まずは特定の現場や製品の問題を改善するところから入っていただきます。村田製作所のモノづくりを理解してもらい、現場との関係を築くことが重要です。その過程は周辺社員もサポートしながら、村田製作所の一員になってもらいます。村田製作所のどこの現場もとても協力的に関わってくれます。キャリア入社の方はデジタルやITの知見に強みがあると思うので、それを活かして現場にアプローチいただければ、キャッチアップや現場との関係醸成には、心配の必要はないと考えています。
村田製作所の教育体制はしっかりしています。OJTもキャリア入社された方が業務を習得するまで徹底してサポートし、現場との関係性を作る機会のアテンドもしています。他にも、全社レベルでの階層型教育も準備されています。Udemyというオンラインの学習サービスもフリーで使え、集合型研修も充実しています。
06. メッセージ
〇どういった方に入社してもらいたいですか?
村田製作所でモノづくりDXを進める醍醐味は、取り組みを通じて効果や金額という「結果」まで実感できること、またその規模が大きいことだと思います。売上げ規模から考えても「社会に貢献する」ということを本当に実感できるような規模の大きさです。
自身のデジタルやITの知見を活かして社会に貢献したい、それを最後まで見届けたいという気概や想いを持たれている方と一緒に働きたいと思います。
私の思うやりがいは、改善した結果や現場が良くなった度合いが、実際に数値の差分としてしっかり出る、ということです。これは村田製作所に新卒入社をした私にとっては当然のことです。しかし社外のDXコンサルの方の話を聞くと、モノづくりの本質的部やビジネスの重要性の観点でマスクしたデータしかもらえない、解析した結果を渡したものの結果がどうだったかをフィードバックしてもらえない、という難しさもあるようです。それを考えると、私はとても実感に満ちた環境で仕事ができていると感じます。
〇最後に入社を検討されている方に向けてメッセージをお願いします。
DXは、世の中でも注目や必要性が非常に高まっており、村田製作所においても同様です。村田製作所はモノづくりそのものに強みがありますので、そのフィールドで本質的なDXを進める実感が得られると思います。
現場と一緒に連携しながら最後まで取り組んでみたい、自分の貢献による大きな効果を得る実感してみたいという方は、是非村田製作所に応募いただければと思います。
モノづくり統括部 モノづくり強化推進部 情報活用推進課 シニアマネージャー 後藤 孔明様(左)
と弊社コンサルタント 中野(右)
タイズの強み
転職支援実績