企業インタビュー
[ 倉敷紡績株式会社 ]
【クラボウ(倉敷紡績株式会社)】技術研究所のソフトウエア開発責任者に、業務内容・社風・働き方・求める人物像についてインタビュー!
01. 会社概要
1888年、地域産業の振興を目指し、岡山県倉敷市に「有限責任倉敷紡績所」として誕生したクラボウ。
以来、基盤となる技術を磨き、応用しながら事業を多角化してきたクラボウは、繊維から化成品、エンジニアリング、エレクトロニクス、バイオメディカルなどさまざまな事業分野へ進出。社会のニーズを鋭敏にとらえ、自社の技術が活かせる分野を見極めながら、事業開拓を続けています。また、若手にも責任ある仕事や大きなプロジェクトを任せ、「人を大切にし、育て伸ばす」社風が受け継がれています。創業130年以上の歴史があって堅実でありつつ、チャレンジングな人財にできる限りの努力を惜しまない、そんな会社です。
02. ご経歴について
まずはプロフィールについてお聞かせください
2000年に大学を卒業してクラボウに入社しました。技術研究所に配属となり、それからずっと技術研究所で勤務しています。最初は情報処理グループに配属となりました。大学の研究室の教授がクラボウと共同研究を行っており、大学の研究室で取り組んでいた技術を商品化する担当となり、大学時代の延長線上の研究だったので仕事に馴染みやすかったです。
これまで、情報処理のソフトウエア開発をしてきました。入社した時からデジタルカメラでいろんな方向から撮影した写真データをコンピュータに取り込んで、撮影した物の大きさや体積を計測する3次元写真計測に取り組み、入社から10年以上システム開発を行ってきました。
技術研究所の研究員としては珍しく、お客様の現場に営業と同行して課題をお聞きし、その課題を解決するためのシステムをつくってお持ちするなど、お客様の声を聞きながら仕事を行ってきました。現場に近いところで仕事ができ、研究所の中だけでは分からない現場のニーズや業界について知ることができる、そんな環境で働けたことが自分を大きく成長させてくれたと思います。
03. 業務内容について
所属部署の役割・ミッションについてお聞かせください
基盤技術グループの情報工学チームに所属しており、その名の通り情報処理の専門チームで、社内や社会のいろんな課題をコンピュータやプログラミングを通して解決していくことをミッションとしています。
私自身はどちらかというとお客様と密接に関わり、商品開発に近い仕事をしてきましたが、2016年に技術研究所の新しい建屋ができた時に組織体制も変わって、アプリケーション中心の開発からアルゴリズム、原理原則の部分を深耕していくことになりました。
ソフトウエアだけでなく、デバイスなどのハードウエアも区別することなく、ハードウエアの能力を最大限に活かせるソフトウエアづくりに取り組んでいます。
業務内容についてお聞かせください
現在のメイン業務はロボットセンシングです。ロボットに画像や感触などの情報を与えて、目的の動作をさせるソフトウエアを開発して、ハードウエアに組み込んでカタチにしていきます。実際に製品化されているのは、ケーブルなどの線状物をロボットでつかんで所定の位置に移動する装置で、その動作を実現するための画像センサーをつくっています。いろんな環境の中から、いかに見るたびにカタチが変わるフラットケーブルなどの線状物をどのように掴ませて移動させるかという技術を研究して、商品開発に活かしています。
技術開発部商品開発課とのすみ分けについてお聞かせください
商品開発課は今あるお客様の課題に対して、できる限り早く解決策を提案します。基盤技術グループはそのような課題解決のサポートに加え、もう少し先の1年後、3年後に必要とされる技術とは何かを考えて、適切なタイミングで商品を出せるように研究・開発を進めています。少し長いスパンで情報を先取りして新しい技術を開発することが私たちの役割です。
部署として注力している技術についてお教えください
注力しているのは工場の中でまだ自動化できていない作業をするロボットの研究です。ケーブルなどの線状物は柔らかくて不定形、つまり常にカタチが変わっており、いつも同じ場所にはありません。かなり自動化されている工場のラインでも配線は最終的に人が行っています。奥まったところの作業は人しか手を入れられませんし、見えないところは手の感触を使って作業を行っています。そんな作業をどうやってロボットにさせるかという研究に力を注いでいます。例えば、奥まったところは超小型のカメラを開発して、ロボットのアームの先に取り付けるなど新たな先進技術を開発して、ロボットがまだ対応できていない作業にどんなアプローチで実現するかを考えています。
技術研究所ではお客様の課題をどのようにキャッチしていますか
技術研究所には基盤技術と応用開発という2つのグループがあります。応用開発グループは技術的市場調査を行って、事業立ち上げのロードマップを作成します。技術研究がビジネスとして収益を生むのか、何年後にどれくらいの事業規模になるかなど、応用開発グループがビジネスビジョンを立て、そのために必要な技術を基盤技術グループが開発します。
2016年から3年間、私は応用開発グループに所属していました。そこでロボットセンシングの事業の立ち上げに参加しました。ロボットセンシングのプロジェクトは何をやっていくかというゼロからスタートでした。ロボットビジョンというテーマはありましたが、具体的に何をするのかはまったくの白紙でした。そこでいろんな市場調査をしたり、いろんな大学に行ったり、業界の会社にヒアリング行うことから取り組みを始めました。
その後、まずは単純な装置をつくって展示会に出して、クラボウの技術を世の中に問うてみようということになりました。お客様の反響を見て声を聞き、その中からこんなものが求められているというニーズを集約して、具体的な技術としてカタチにしていこうと考えたのです。
その展示会に出したのは柔らかいタオルの両端をロボットがつかんで移動させるという装置でした。想定を上回る反響があって多くの来場者がありました。ある来場者に「タオルがつかめるのならケーブルもつかめるんじゃない」と言われたことがロボットセンシング開発のきっかけとなりました。いろいろ調べてみるとケーブルを配線する作業はすべて人が行っており、これはきっと需要があると考えたのです。他にも「唐揚げがつかめますか」という質問を受けてプロジェクトで検討しましたが、技術的にかなりハードルが高くて断念しました。
働く中で感じる仕事の魅力についてお聞かせください
応用開発グループで事業の立ち上げに関わったことで考え方が変わりました。昔はお客様の要望に応えることに喜びを感じていましたが、ビジネスとしてどうなのかという意識はそこまでありませんでした。応用開発グループを経験して、実際に自分が面白いと思う技術と世の中から必要とされてビジネスになる技術は別なのだと思いました。そのギャップを埋めながら10年先のことを考えて、どんな技術に取り組むなのかきちんと計画すべきだという意識を持つようになりました。もちろん技術者として世の中にないものを作りたいより良いものを作りたいという思いはあります。しかし今はビジネスとなって、なおかつ世の中にないものをつくる、その技術を見つけることがこの仕事の魅力だと感じています。
今話題になっていたり、売れていたりする技術はいろいろありますが、情報工学チームとして、その技術を研究して本当に自分たちのためになるのか、会社のためになるのかということをきちんと考えていきたいと思います。行き当たりばったりで取り組んで10年経ってから、自分たちに何も残っていないという状況だけはリーダーとして避けたいと思っています。
これまで印象に残っている仕事についてお聞かせください
入社当時、写真計測技術は今ほど普及している技術ではありませんでした。だから、お客様のところでデモをすると「写真だけでこんなに正確に測れるのか」とすごく驚かれました。そういうお客様の反応を見ると嬉しかったです。実際に自分でいろんな機能をつくって「これでこんなことができます」と説明した時にお客様に「すごい」という声を直接聞けることが楽しみでした。
写真計測技術分野では昔も今もクラボウはトップランナーです。あるお客様のところに伺った時に「世界一の写真計測装置で測れなかったけど測れる」と言われて測ってみたら正確に測定できました。心の中で「私が世界一だ」と思いました。本当に自分は最先端の技術者なのだと実感できたことが印象に残っています。
3次元写真計測技術はクラボウのどんな技術から派生して生まれたのですか
クラボウのコア技術である画像処理は染色の色目を測定するセンサーを40年ほど前に開発したことから始まっています。そこから色をポイントごとに正確に測った画面を遠見すればカラーカメラになるということで小型のカラーカメラを開発して、それが広く世の中に受け入れられました。そして、このカラーカメラを開発したことで染料だけでなく、薬品や道路などさまざまな画像検査に使われるようになりました。
クラボウの画像処理技術のもう一つの独自性は膨大なデータを扱えることにありました。パソコンには小さなメモリしかなくて扱えない場面でも、クラボウの画像処理技術を使えば大容量の画像を扱うことが可能になります。現在、道路検査装置などにもこの技術は応用されており、高速道路を100kmで1時間クルマを走らせて道路状況を撮影したデータは膨大なものになりますが、それを扱えるようにしているのがクラボウの画像処理技術です。
このように画像処理はもともとクラボウのコア技術でした。その技術を計測技術と組み合わせたら面白いものができるのではないかということで20年ほど前に写真計測技術の開発が始まったのです。繊維業界では衣服を体にフィットさせることが重要なテーマでした。そこでまずは定規では測れないマネキンを正確に測定することにしました。しかし、マネキンを測定してもビジネスにはならないので、ビジネスになるところとして最初は交通事故の現場写真をターゲットに商品としての開発をスタートしました。交通事故が起きると事故の状況を詳細に記録するために特殊なステレオカメラを使って、上から順に撮影してその写真を図化機という装置に写真を取り込んでアナログな作業で立体にしていました。その作業をコンピュータでデジタル処理して立体化する3次元写真計測システムを開発したのです。それが交通事故現場や災害現場へと広がり、現在も計測・測量分野、調査・研究用途で幅広く利用されています。
こうして3次元写真計測システムはどんどんノウハウを蓄積し、現在のロボットセンシングへと発展していきました。
これから取り組んでいきたい仕事についてお聞かせください
ソフトウエアやアプリケーションだけでなくてデバイスも含めた世の中にないものをつくっていきたいと思います。その一つの取り組みがAI技術です。実際にロボットセンシングに適しているかどうか分かりませんが、世の中で新しいと認識されている技術に取り組んで、最新技術を使って「こんなこともできます」といえる技術を開発したいと思います。今のところAI技術はロボットセンシングにとっては、それほど便利なものではなくて、膨大なデータが必要でそのデータを集めるためにも多くの人手が必要となります。そんな課題を解決して、いかに使いやすいものにするか、ロボットセンシングや道路検査をはじめクラボウのあらゆる製品やサービスにどうやって活かしていくか、そんな技術の開発にも積極的に取り組んでいきたいと考えています。
情報工学チームのミッションはロボットセンシングだけではなくて、社内外からいろんな相談を受けて課題を解決していくことです。その課題に対して必要な技術を開発して、いかに魅力のあるカタチにしていくかが私たちの大きなテーマです。
04. 社風や働き方について
会社の風土、職場の雰囲気についてお聞かせください
クラボウは良くも悪くも歴史のある会社です。古い部分も結構ありますが、それが悪いことかといえばそうでもなくて、例えば技術研究所ではコロナ以前は社員旅行に出かけており、昔からある会社のカタチをきちんと受け継いでいます。それに加えてダイバーシティなど今の時代に合わせて変えていこうという意志も感じています。良い意味で安定しているので、一気にがらりと変わることはないと思いますが、それも悪いことばかりだとは思わないです。
情報工学チームはわりとみんなマイペースで仕事に取り組んでいます。基本的には自主性を重んじていますので、テーマに対してどう取り組むか、どんなスケジュールで研究を進めるかは、まず自分で考えてもらって、それを私がサポートしています。
基本的に基盤技術の研究員は自主的に指示されたことに対して自分で考えて答えを出しています。
05. 求める人物像について
どのようなスキル経験、志向をお持ちの方が活躍されていますか
スキルについてはしっかりとしたプログラム技術と画像処理に関する経験を持っている方です。また、ソフトウエアだけでなくハードウエアも開発にからんでくるので、その知見も持っている方を求めています。しっかりとしたスキルを持っていてソフトウエアがつくれる、技術者でありクリエイターである方が活躍しています。自分で面白いものを探して購入して、それを組み合わせて装置をつくって評価するなど、いろんなことをやってみたいという方が活躍できる業務です。
ふとメンバーに「何をやっているの」と聞くといろんなAIのソフトを試していたり「スキャナーで変なハードがあったので買ってきました」というメンバーもいたり、スケジューリングがうまい人は時間の余裕をつくって、自主的に自分で興味を持ったことに取り組んでいます。誰かから仕様をもらって進める仕事ではなく、問題に対してどうやって解決するのかをまずは構想する、そんな創造力を発揮できる仕事をしたいという方には最適な環境だと思います。
キャリア入社者に期待すること
実際にプログラミングをしてアプリケーションをつくって、現場にも足を運んでもらいたいと考えています。もう一つ期待するのは、チームで40代の私の下が20代のメンバーになるので、若いメンバーの相談相手としての役割にも期待しています。
06. メッセージ
クラボウに興味をお持ちの方にメッセージをお願いします
クラボウは繊維の会社というイメージがあると思いますが、実際にはありとあらゆるといえるほど幅広い事業を行っています。名前はなかなか表に出てきませんが、自動車業界や半導体業界、住宅・建設業界、繊維では大ヒットした伸びるデニム、日本で初めてフリーズドライ食品を工業化した関連会社など、世の中にはクラボウがつくったものが広く普及しています。
ニッチな市場でトップレベルの技術を持つ実力のある会社です。自分がやりたいことでその分野でトップレベルの技術者になれるチャンスがあります。
私たちと一緒に世の中が必要としていてビジネスになる、まだ世の中にないものをつくり出していきませんか。