企業インタビュー
[ 倉敷紡績株式会社 ]
【クラボウ(倉敷紡績株式会社)】注力分野の半導体関連事業!開発グループにミッションや開発製品についてインタビュー!
(写真右)宗德 皓太様 技術研究所 応用開発グループ 研究員(2019年8月入社)
01. 会社概要
1888年、地域産業の振興を目指し、岡山県倉敷市に「有限責任倉敷紡績所」として誕生したクラボウ。
以来、基盤となる技術を磨き、応用しながら事業を多角化してきたクラボウは、繊維から化成品、エンジニアリング、エレクトロニクス、バイオメディカルなどさまざまな事業分野へ進出。社会のニーズを鋭敏にとらえ、自社の技術が活かせる分野を見極めながら、事業開拓を続けています。また、若手にも責任ある仕事や大きなプロジェクトを任せ、「人を大切にし、育て伸ばす」社風が受け継がれています。創業130年以上の歴史があって堅実でありつつ、チャレンジングな人財にできる限りの努力を惜しまない、そんな会社です。
02. ご経歴について
大根様、宗徳様のプロフィールをお聞かせください
大根様:1998年に大学院を卒業後、大手家電メーカーに入社し半導体のプロセス開発を行っていました。しかし、その会社が経営統合されることになり、所属していた半導体事業は外資系企業に譲渡され、転籍になると聞かされました。これからのキャリア形成のことも考えて、地元の大阪へUターン転職をすることにしました。
転職活動の中で出会ったのがクラボウです。半導体分野で新しい計測技術をリリースしていくための技術者募集で、私の志望と合致していたので入社することに決めました。
宗徳様:2008年に大学院を卒業し、関西の半導体製造装置メーカーに新卒入社。前職では12年間、装置の開発から量産化の立ち上げまで一貫して担当し、すべての工程を経験しました。京都に住んでいましたが、勤務先は滋賀県で通勤時間が長く、また実家が神戸ということもあり働き方を見直そうと転職を考えました。いろんな会社の面接を受けましたが、面接官の大根さんと話をして「この人と働きたい」と感じました。
クラボウへ入社を決めた理由についてお教えください
宗徳様:大根さんに惹かれたことに加えて、仕事内容が新しいセンシングデバイスの開発という未知数の事業だったことにも興味を感じました。面接を受けるまでは、いくつか応募している中の1社という位置づけでしたが、面接官が10名ぐらい出てきて、私が経験してきた開発内容や取得した特許など、スキルや知財に関して、かなり深掘りの質問を受けましたね。
根掘り葉掘り質問を受けたことで、期待されていると感じたのです。やってみないと分からない新しい事業だからこそ、私の居場所があり、私に対する期待も大きいと思ったことも入社を決めた理由です。
03. 業務内容について
技術研究所・応用開発グループの組織体制、役割・ミッションについてお聞かせください
大根様:技術研究所は応用開発グループと基盤技術グループで編成されており、応用開発グループは15名、基盤技術グループは約55名の研究員が在籍しています。応用開発グループの15名のうち7名が管理職、8名が専門職の研究員で平均年齢は30代後半から40歳代です。
基盤技術グループは世に中にない技術を作り出し、その新しい技術を世の中に送り出すのが応用開発グループのミッションです。
現在、応用開発グループの15名で4つのプロジェクトを動かしています。薬液の精密計測・リアルタイム制御装置を開発するセミコンソリューションプロジェクトが4名。モノの形状や位置を認識するカメラを開発するロボットセンシングプロジェクトが4名。再生医療支援・新規細胞培養関連のライフサイエンスプロジェクトが4名。そして高機能フィルムや強化繊維を開発するマテリアルソリューションプロジェクトが3名です。
すべてのプロジェクトが50億円規模の新規事業を創出することをミッションとして、それぞれ10~15名の基盤技術の研究員と連携しながら事業部と一体になって、お客様に新しい製品・サービスを提供することを目指しています。
お二人の仕事内容についてお聞かせください
大根様:私は応用開発グループの全体を統括する立場です。4つのプロジェクトを管理すると同時にセミコンソリューションプロジェクトのリーダーも兼務し、プロジェクトの進捗管理やマネジメントを行っています。技術開発の大部分は宗徳に権限を委譲している状況で、基盤技術と連携しながらの技術開発は宗徳が行っています。
宗徳様:半導体関係の計測・制御装置を作っています。事業部がすでにリリースしているものではなくて、次の世代に向けた開発品を作っています。内部のコアな技術は基盤技術のメンバーが開発していますが、その技術を製品としてどうしていくのかという道筋をたてて、試作品ができるとお客様のところへ持っていき、「使えるのか使えないのか?使えないとすればどうすればいいのか?」などを検討・評価しています。
04. 製品について
半導体洗浄装置向け計測・制御装置はどのような用途で使われるのですか
大根様:半導体デバイスメーカーなどがつくる半導体製品はシリコンウエハーの表面に細かな回路パターンを写真のように転写・加工して、その上に配線を転写・加工するという作業を何百回も繰り返して半導体の元をつくり、最終的にはそれをカッティングして小さなチップにします。
現在の回路パターン幅の最小寸法は数ナノメーターで、原子10個分ほどと微細で物理的限界に近くなっており、数百回の転写・加工を繰り返す工程の中ではゴミや汚れが品質に大きな影響を与えます。そのため数百回の転写・加工の度に、ウエハーに薬品をかけて洗浄処理が行われています。
私たちが開発している半導体洗浄装置向け計測・制御装置はアルカリ性や酸性の薬品の濃度、温度などを計測し制御して正常な洗浄処理がおこなわれるように洗浄装置に組み込まれています。
洗浄装置向け計測・制御装置はどのようなコア技術が使われていますか
大根様:もともとクラボウが持っている技術です。
紡績工場で、染色に使われる染料の色味や濃度を計測するために培った技術を20年ほど前に事業として立ち上げて、食品メーカーのお酢や醤油、一般的な工場で使われる薬品などの測定・制御装置として提供してきました。現在あらゆる製造現場の中で最も精密な測定を求められるのが半導体分野で、クラボウとしてはそこに力をいれていこうという状況になっています。
これまでの洗浄装置向け計測・制御装置と開発されている装置との違いについてお教えください
大根様:様々な薬品の濃度・温度を計測する装置はクラボウでも20年程前から作っています。薬品がタンクから洗浄装置にくるパイプの途中、イン・ライン(In-Line)と言われるところに装置を取り付けて、薬品が所定の濃度・温度になっているかを測定して制御します。この装置を作っているのはクラボウだけでなく競合他社はたくさんあります。
今、私たちのプロジェクトが取り組んでいるのはシリコンウエハーに薬品をかけているその場所、これをイン・サイチュ(In-Situ)と呼びますが、このイン・サイチュでの薬品の濃度・温度を測定・制御する装置の開発です。薬品をかけているその場所で濃度・温度を測定することがこれまでの装置との大きな違いです。今のところこのイン・サイチュの装置開発に取り組んでいる企業はなく、私たちが世界に先駆けてリリースする予定です。
私はイン・ラインで計測し薬品を制御する開発要員として、2012年にクラボウに入社して3年後に製品をリリースしました。2015年にクラボウの経営陣が世の中にイノベーションを起こせる新しい事業を立ち上げることを掲げて、今のプロジェクトが立ち上がり、イン・サイチュに大きく舵をきって新しい装置の開発がスタートしたのです。
イン・サイチュ装置の開発はどのようにして思いつかれましたか
大根様:お客様の声ですね。
2015年から新しいプロジェクトとして、イン・サイチュ装置の開発が始まりましたが、2012年にクラボウに入社した後、イン・ラインのシステムを作って感じた課題がありました。それは薬品の濃度・温度を装置に入る前の上流工程で計測して制御することはあまり意味がないということです。理由は洗浄装置に入る前と処理をしている時とは薬品の濃度や温度が変わってしまうからです。実際にお客様からもそういった意見を多くいただきました。トラブルの多くは処理している時にうまく作れていない、測れていないことが原因です。つまり、上流工程で測っているだけではダメで、処理している状況を直接測ることの方が理にかなっています。処理とは離れた場所で計測器が測定した情報ではなく、本来使っている場所の情報をお客様が欲しいというのは正しいと思いました。
だから、新しいプロジェクトではイン・サイチュを大きな旗印として掲げました。
宗徳様:私は前職で半導体メーカーに製造装置を納めていました。お客様から「計測値が全部一緒なのに仕上がりが違う」とよく言われました。こういう状況になると不具合の原因はもはや分かりません。そんな時に「この計測値が見られたら良いのに」と思っていました。そういう箇所はいくつもありましたが、洗浄中のウエハー上で薬品の濃度・温度を測定することもその中の一つでした。だから、面接で大根さんからイン・サイチュ装置を作ると聞いた時に、実現すれば間違いなく成功すると思ったのです。
競合他社がイン・サイチュ装置の開発に取り組まないのはなぜですか
大根様:これまでの装置は計測メーカーが作ってきたからだと思います。言い換えれば、半導体洗浄装置の薬品に使うといった限定された環境を想定して作ることはあまりなかったと思いますね。イン・ラインで測定するのは測った後に薬品がどういう使われ方をするかまでは考えてなかったからです。
イン・サイチュ装置のように洗浄処理している最中に薬品の濃度・温度を測ろうとすると、どういう使い方をするのか?どういう制御をしたいのか?それらを十分に理解したうえで、そのために必要な性能やシステムまでを組み込む必要があります。
競合他社にも計測器の専門家はいますし、クラボウの基盤技術グループにも何十年も計測器に取り組んできた技術者はたくさんいます。
しかし、実際に半導体工場で洗浄装置に計測・制御装置を組み込んで、その計測からどんな情報をアウトプットして欲しいのかまで理解できる人材は少ないです。半導体の分野で製造装置をつくってきた、あるいは製造装置を使ってプロセス開発をしてきた人材。つまり私や宗徳のような人材がいないと開発できないのです。
まだ、そこまで競合他社は踏み込んではいません。しかし、いつ同じことを考えて開発をスタートさせるか分からないので、可能な限り早くリリースしたいと考えています。
市場・顧客からどのようなニーズ、技術開発を求められていますか
大根様:ご存知の通り半導体業界はすごく活況で設備投資額も対前年比140%を超え、史上最高の投資額になるといわれています。そんな環境の中で、半導体の製造装置メーカーは自社製品の提案を積極的に行っていますが、顧客への提案に際して新しい付加価値を求めています。そのためにこれまでになかったイン・サイチュの計測・制御装置への期待は高く「すぐに持ってきてほしい」「すぐにでも組みたい」という声をいただいています。
現在は社内評価の段階で、まだお客様に使ってもらえる状態ではありません。今秋をめどにお客様のところに持ち込んで、評価してもらえる状態にするために急ピッチで開発を進めています。
これから取り組んでいきたい仕事についてお聞かせください
大根様:まず開発している製品を世に出すことです。まだ競合他社が手を付けていないので、いち早く世に出すことで業界No1の地位を確立することですね。
宗徳様:私が前職の製造装置メーカーの時に欲しいなと思っていた技術を作っていきたいです。欲しかった技術は他にも一杯あるのでいろんなメーカーと連携しながらオープンイノベーションで洗浄装置業界の課題を解決していきたいと考えています。
イン・サイチュから派生させて、数多くある課題を一つでも解決していきたいと思います。
05. 社風や働き方について
会社の風土、職場の雰囲気についてお聞かせください
大根様:半導体は1970~80年に始まった新しい事業です。クラボウは130年以上の歴史を持つ企業ですが、今は「面白いことやってやろう」というスローガンを掲げており、特に技術研究所はそれを実践している部署で、そうした雰囲気に溢れています。コンプライアンスと安全の2つをきちんと守れば、自由に仕事をさせてもらえます。
宗徳様:私も同じようなことを感じています。いろんな人たちと話してみるとすごく面白い人が多いのです。研究員は真面目で頭の良い人が多く、キャラクターも多種多様でとても面白いですね。
出張や残業など働き方についてお聞かせください
宗徳様:出張はコロナ禍で少なくなっています。お客様相手の部署なので、顧客対応で残業する時もありますが、基本的には定時で退社します。私が入社してからフレックスやテレワークが導入されて、業務がきちんとまわる範囲ならわりと自由に勤務を決められるので働きやすい環境だと思います。
大根様:テレワークやフレックスの制度を使う人が多いですね。緊急事態宣言下ではテレワークが前提で会社からも積極的に利用して欲しいといわれています。実験や評価業務がある時は出社しますが、データをまとめて考える仕事はテレワークで行っています。平日なら早朝から昼までとか逆に午後から出社するなどフレックスを使って、自由なカタチで働くことができます。
06. 求職者へメッセージ
どのようなスキル経験、志向のある人材を求めていますか
大根様:半導体洗浄装置の開発に携わったことのある方、あるいは半導体洗浄装置を使ってプロセス開発をした経験のある方です。
また、応用開発グループでは黙々と研究を進める基盤技術の研究員を動かして仕事をするので、自分から積極的に人とコミュニケーションが取れるバイタリティーのある方を求めています。
宗徳様:紡績から始まったクラボウが元々持っている文化は、半導体業界とはスピード感が全然違います。半導体工場とは違いがあるのでクラボウに染まってしまわないような自分の軸が必要です。逆に半導体の文化にこだわりすぎるとコミュニケーションがうまくいきません。フワリと職場に入っていける「柔らかくて折れない軸」を持っている方が向いていると思います。いろんなキャラクターの人がいるので、多様性を楽しめる方には面白いと思いますよ。
最後にクラボウに興味を持っている方へのメッセージをお願いします
大根様:私がキャリア入社した時に「魚のカマス(魳)になってくれ」と役員の方に言われました。その時は意味が分からなかったのですが、後で調べるとカマスは稚魚やイカを捕食するほど凶暴な魚だったので、上に目がついていて上司ばかりみているヒラメ社員ではなく「クラボウに染まらずに常に新しい風を起こして、クラボウを革新してくれ」という意味だったと理解しています。
今、クラボウには新しいことをやってやろうという気概があります。それを周りの人たちも受け入れる環境があり、新しいことやるためにキャリア入社した人もたくさいます。入社いただく方にはカマスになって良い意味でクラボウをかき回してほしい、私たちと一緒にイノベーションを起こしていけたらと思っています。