お盆と転職

<細井智彦> 細井智彦事務所代表 転職コンサルタント

大手人材紹介会社にて20年以上転職相談や模擬面接などの面接指導に取り組む。企画し立ち上げた面接力向上セミナーは12万名以上が受講する人気セミナーとして現在も実施中。採用企業の面接官向けにも研修・講義を開発し、人事担当から経営者まで、260社、面接官3000人以上にアドバイスをしている。2016年3月に独立し、フリーな立場から、引き続き個人と企業の面接での機会創出に取り組んでいる。著書『転職面接必勝法(講談社)』ほか多数


最近話題の求人広告

毎日暑いですね。特にことしの蒸し暑さは尋常じゃない、と思うのは私だけでしょうか。きょうは滋賀県の近江八幡まで出向いたのですが、八幡宮に流れこむ風がとても心地よく、そういえば田舎の夏ってこんな感じだったよな、と思いながら、いつまでもその風に身を委ねたくなりました。ちなみに栗東から米原や対岸の長浜あたりまで、琵琶湖の周りは、関西の冠たるメーカーの研究所や工場がたくさんある隠れたハイテクエリアですね。これを読んでいる方にもたくさんお勤めの方がおられることと思います。

さて、最近ちょっと話題になっている求人広告をご存知ですか?トヨタ自動車が南武線沿線に出した求人広告がそれです。

沿線に電機メーカーが多い南武線で沿線に勤務する対象に向けた求人広告を展開しているのですが、広告を出したトヨタ自動車社は、ネットの記事によると「南武線沿線の人を求めている」と言ったそうですが、なんというか王者の風格すら感じさせる堂々ぶりですね。これって関西でいえば、国道8号線の沿線や栗東〜米原あたりの東海道本線や近江鉄道のホームに、「あのメーカーにお勤めの方へ!自動車メーカーに来て、自動運転で世界を変える仕事しませんか?」なんてやられるようなもんですよ。南武線沿線の企業はどう思っているのでしょうか、気になるところです。

時代とともに「転職」というものに対する目線がカジュアル化したというか個人と企業の繋がり方がゆるくなってきているなどの時代感も相当変わったように感じます。炎上商法って言葉が生まれるほど、話題になればあえてスレスレのところを狙うということでは今回の求人は南武線以外の人にトヨタのホンキを知らしめた点では成功しているように思います。

お盆休みでも意外にじっくり考えられない

さて、滋賀に研究所や工場のある関西メーカーにお勤めのみなさんにもやってくるお盆休み。実家に帰省される方、旅行に行く方さまざまでしょうが、年末年始と並んでじっくり時間がとれやすいこの時間に転職について考えようとか、企業研究しようとか思っている人も多いのではないでしょうか。

そんな方にひとこと。「意外にあっという間に時間は流れてしまい、じっくり考えることなんてできません。きっと気がついたら夏休みが終わってしまった、となってしまうでしょう。」ここまで読んで、ちょっとムカッとし、そんなことはない、自分はじっくり考えてみせてやる、と思った方、ぜひ私をぎゃふんと言わせてください。ただ、時間はすぐ流れてしまうのでいまから計画し大事に使ってあげないと私の予言通りになりますよ。

なにもしない時間は意識して作らないと、なにかしてしまう時間で埋まる

何が言いたいかというといまの都市生活では「なにもしない時間」や「考え事する時間」は、実はあらかじめ考えてスケジューリングしておかないとできにくい、というパラドクスのようなことになるってことです。休みは休みで、実はやることや考えることが多くて、頭を空っぽにし、物思いにふけることはとても困難になりつつあると自分自身感じています。だから年末年始やお盆のような長期休暇と転職活動をからめる記事で、すぐ、「お盆にじっくり考えよう!」なんて方向になりがちなところを、あえてそう言わずに、お盆にじっくり考えようと思っている人がいたら、お盆ではじっくり考えられません。いますぐ考えはじめましょう、というのが私からの提案です。

お盆休みは考える時間より機会を得る時間

ただ、お盆休みは考える時間はままならないけど、考えるきっかけ、つまり機会が得られる時間にはなります。田舎で過ごす時間が素敵で、自分の居場所はこっちかも、なんて感覚の芽生えだとか、再会した旧友と話して思うところがでてきた、老いた両親を眺めながら介護のためのUターンを考えはじめる、とか、旅行先の体験から自分の居場所を見直そうと思ったまで、ひとそれぞれ将来を見つめ直す機会を得ることは多いはずです。

だから、結論です。もし夏休みになればじっくり考えられると思っているなら、いまから考えてみましょう。夏休みは将来を考え直すきっかけを得る、と割り切って臨み、休みが明けてから休み中に得た機会を行動に移して活かしてください。

お盆休み以外の時間によく考える

そして、ここからがけっこう肝なんですが、いまの売り手市場下の求人各社はまだ転職動機の弱い人に積極的に早期からアプローチをはじめる傾向があります。ふらっと説明会や座談会に参加したら、そのまま面接がとんとんと進み、あれよあれよと言う間に内定がでてしまう、というようなことは少なくありません。そして、内定を断るのは、けっこう勇気がいることで、そのまま入社される方も多いものです。こんな状況の一方で、入社後早い段階から、想像と異なる、という理由で、再転職を検討される方が増えています。やみくもに慎重になることは勧めませんし、なにごとも踏ん切りは必要です。ただ転職後の姿をあまりイメージしないまま転職をしてしまうのは避けるべきです。だからすこしでも「転職」が視野に入っているならば、思い立ったが吉日。夏休みまで待つ必要はありません。まずは企業研究をはじめてみてください。ここにもし入社したら、どんなことをして、どうなれそうか、現職とどう変わりそうか、想像するところからはじめてみてください。このはじめの一歩、行動に踏み出すことがとても大事なことです。転職エージェントに相談し客観的な視点からのアドバイスを受けることもとても有効な準備ですのでぜひご利用を検討してみてください。

しかし、夏休みのような時間があってなにかをしなければいけないと思いながらいまひとつ気乗りがしない、そんなとき、ふと目の前のテレビに映し出される火曜サスペンス劇場の再放送が、とてつもなく面白く感じてしまうのは自己逃避という単純なことでしょうかね。

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細井 智彦

細井智彦事務所代表
転職コンサルタント

大手人材紹介会社にて20年以上転職相談や模擬面接などの面接指導に取り組む。
・12万名以上が受講する面接力向上セミナーを立ち上げる
・採用企業の面接官向け研修・講義を開発、これまで人事担当から経営者まで350社、面接官3000人以上にアドバイスを実施。
現在は独立し、フリーな立場から、引き続き個人と企業の面接での機会創出に取り組んでいる。
著書『転職面接必勝法(講談社)』ほか多数

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