企業インタビュー
[ イシダメディカル株式会社 ]
【イシダメディカル(株)】代表取締役に今後の展開・社風・求める人物像をインタビュー!
01. 会社概要
食品業界向け包装・計量機器メーカー世界2位「はかり」のイシダが出資し、2020年4月に設立された新会社。
「世界中の患者さんと医療従事者の医療現場での課題を革新的に解決し、バイタルデータの収集と提供を通じて疾病予測につなげ、世界の人々の健康に貢献する」というミッション・ステートメントのもと医療機器の開発を進めています。その第一弾として、全身麻酔手術患者の尿量と血尿の度合いを自動計測する世界初の医療機器の開発に成功。日本と米国で販売を予定しています。今後は、他のバイタルサインを記録可能な医療機器を開発し、データのプロバイダーのような存在を目指しています。
また、現場主義を徹底しており、病院内に研究開発のラボがあることから、医療従事者の課題に対して、企画から製品開発に携わることができます。さらに、個人の想いや成長を非常に重んじる社風であり、そのために、必要な「環境」や「道具」はサポートする体制が整っております。したがって、「新しいものを開発したい」というチャレンジ精神・熱意をお持ちの方にはオススメの会社です。
02. 開発について
開発ニーズはどのようにしてキャッチしていますか
現場に身を置くことですね。
私たちの行動指針は、「グローバル」「コラボレーション」「オンサイト」の3つです。開発で大切にしているのは「オンサイト」つまり現場に近いところで開発することです。この滋賀医科大学内の弊社ラボもその指針に沿っています。イシダの行動規範には「現地・現物・現場」に基づいて判断する三現主義がありますが、私は製品開発にとってこれが一番重要だと思います。ニーズはあえて探しに行くと見つからないものです。そこに身を置くことが大切だと思います。
私たちは外来患者案内システムを多くの病院に納品しており、出入りする機会も多くいろんな人と知り合いになっています。その結果、例えば手術室も見られる機会などもあります。そのような現場でとてもアナログな作業を目にすることができます。
食品業界はいろんなことが自動化された世界ですが、病院に行くとなぜこんなことを手作業でやっているんだろうと思うことがよくあります。現場からこうしたいという要望がニーズですが、私たちは必ずしも現場の要望に応えて開発するわけではなく、ニーズではなくシーズをキャッチしています。その結果「この作業はこうすれば省力化できますよ」と提案すれば、そんなことができれば絶対便利だという反応がよく返ってきますね。
私たちが食品という違う業界にいたからこそ新しいところに気付けるのだと感じます。
御社のモノづくりで大切にしていることは何ですか。
大切にしていることは2つあります。
一つは「自分たちは何屋になりたいのか」。二つ目は「どうやって差別化するのか、言い換えれば売れ続けるようにするか」ということです。一時期だけ売れることは比較的簡単ですが、売れたら競合が出てきたりして売れ続ける状態を作ることはものすごく難しいのです。ただ、この2つを押さえておけば成功する可能性が高まります。
「私たちは何屋になりたいのか」という設定には「バイタルサイン医療機器メーカーになりたい」としました。
そのミッションは2つあって「医療従事者の現場の課題を解決して楽にしたい」ということと「私たちの装置を使うと患者さんのバイタルデータが取れて、疾病予防につなげて世界の人を健康にする」ということです。これに準ずることだけをやっていき、それ以外のことはやらない。逆にこれだけをやっていけばバイタルサイン医療システムメーカーになれると考えました。
「どうやって差別化するのか、売れ続けるのか」。これを実現するためには製品の差別化要素に簡単に真似されない自社技術の独自性を入れ込むことが大事です。また、差別化と言ってもお客様が魅力に思わないことで差別化しても意味がありません。お客様が何に対して差別化だと認識するのかを探し出すのがメーカーの仕事です。話を聞いて、分析して、それを見つけ出すことが出来れば後発でも必ず勝てる可能性があるのです。
具体的な開発例はありますか
外来患者案内システム(※1)はこの原理に従って開発しました。同じようなシステムはすでに大手企業が4社で開発され、10年前から販売されていました。しかし、日本に8,500もの病院がありますが、このシステムが導入されている病院数は100に満たなかったため、それらの製品はお客様の要望を完全には満たしていないと考えました。そこで、導入、非導入合わせて約90病院を訪問して、もし外来患者案内システムを導入するとしたら、何を重視して選ぶのかというヒアリングを実施しました。
その結果、重視するポイントの上位3つは「患者さんにとって見やすくて分かりやすいこと」「これを管理する病院スタッフが楽なこと」「病院のWi-Fiにつながること」でした。調べてみるとこの3つをすべて満たしている製品がないことが分かり、3つを実現すれば勝てると確信したのです。結果、私たちの製品を導入する病院が相次ぎ、競合4社のうち3社は事業から撤退しました。
もう一つは、イシダメディカルで開発した排尿計測記録システム(※2)です。排尿量を記録する装置は昔から存在していましたが、発売されては消えて、また発売されては消えるといったことを繰り返していました。使っていた病院の人に聞くと、便利だったのにいつの間にかなくなっちゃったと。これは必要とされているけれど、どの製品も何かが足らないからから消えていったのだと考えました。そこで病院にどこが足りないかをヒアリングしたのです。その理由は「データは装置の画面に表示されるだけでデータが取り出せない」「床置きで持ち運びがしにくい」「消耗品のランニングコストが高い」というものでした。それらを解決するために、データは通信で電子カルテに記録できるようにしました。秤は水平な場所に置かないと量れないためこれまでの計測器は床に直接設置でしたが、移動しやすく、点滴ポールや手術ベッドに直接取り付けられるよう、ジャイロセンサーを入れて装置の傾きに応じて重量値を補正するようにしました。この技術は秤屋だからこそできた解決法です。そして、ケーブルを無くすために電池駆動式にしたり、無線通信方式にしたりしました。ランニングコストが高いのは、尿を貯めるウロバッグが専用品でそれが高価だったためで、現状医療機関で使用しているウロバッグの販売上位5社のものをそのまま使えるようにしました。
売れなかった理由を特定して、そのマイナスをプラスに変えて売れるようにする。顧客が選ぶ理由(Key Buying Factor)を探し出すのがメーカーにとってとりわけ大事だと考えています。
世の中で消えていったものをそのまま見過ごさないことも大切です。本当に役に立たなかったのか、性能が悪いのか、価格が高すぎたのか、それを見極めることがビジネスチャンスにつながりますね。
実は日本の医療機器はアメリカではあまり成功していないと言われています。ある調査機関によるとその理由はIT対応が十分にできていないことが一つとされています。日本の医療機器、医療情報は院外に出さないことが前提となっていますが、アメリカでは医療機器はネットワーク機器・端末として開発されます。だから排尿計測記録システムの製品の組み込みソフト、上位のサーバソフトはアメリカのソフト会社に開発を依頼しました。
※1 外来患者案内システム・・・病院に設置されており、案内受信機により外来患者さんの次の予定をお知らせ。院内で快適な待ち時間を過ごすことが可能になる。
※2 排尿計測記録システム・・・全身麻酔手術患者を対象とした看護スタッフによる尿管理業務(尿量・血尿管理)を自動化。本体をベッドサイドに設置し、ウロバッグを吊り下げ重さで量を測り、チューブをクランプしてLEDセンサーで血尿の計測記録が可能。計測されたデータをパソコン上で確認することもできる
03. 今後の展開について
今後の展開をお聞かせください
国内だけでなく、行動指針に掲げているように「グローバル」を視野に入れています。
例えばアメリカは医療機器情報データをどんなふうにハンドリングしてネットワークに繋げるかが重視されます。そもそもそれが要求されているので、対応しないと生き残れないのです。
今回、排尿計測記録システムを開発するにあたり、台湾のメーカーを4~5社訪問しました。その中の1社の社長が「どうしてもやらせてほしい」と熱心に申し入れてきました。その理由を聞くと「アメリカで絶対ニーズがある」とのことでした。アメリカ進出のサポートもするので、アメリカを意識して開発を進めてほしいと言われました。それならアメリカの医療関係者にヒアリングできますかと相談すると、すぐに全米各地の大規模病院で勤務する医師や看護師にアポを取ってくれました。現地でヒアリングすると「これは絶対に欲しい」と大好評。そこからアメリカではどんな機能が必要なのかといったことについて調査を重ね、アメリカでも販売できるように要求仕様を変更しました。
排尿計測記録システムの今後の展望としては、血尿だけを計測するものから尿蛋白や尿の比重などを計測できるようなオプションを追加していきたいと考えています。
04. 社風や求める人物像について
御社の風土についてお聞かせください
自分がどうなりたいかという思いを大切にしています。そのために必要な環境や道具はどんどん導入しています。人材のパフォーマンスを120%の力を引き出すことがマネジメントの仕事です。力を発揮してもらうためには、私たちがそれぞれのメンバーに期待していることを明確にして、認めてあげることです。逆に自分が何のために働いているのか分からないといった気持にさせないことが必要です。人は目的が明確だから力を出せる。その気持ちを維持させることを、仕事の環境を含めて大切にしています。
求める人材についてお聞かせください
仕事に対する熱意やチャレンジ精神を求めています。当社はスタートアップ企業なので、いろんなものが不足しています。同じ職種の仲間がいないので、相談しながら肩をたたき合って仕事をすることができません。難題に対して自分一人の力で何とか解決していかなければなりません。物事は大体上手くいかないことの方が多いので、最後は熱意で乗り切る必要があります。
採用したスタッフの中に大手企業で家電を開発していた人がいます。画期的な構造を開発して将来を嘱望されていた方ですが、当社に転職してきました。理由は同じ機種を何年か毎に更新する仕事ではなくて、ここで新しい製品を開発したいという強い想いがあったからです。彼のような安定を求めるよりも面白いことにチャレンジすることを選ぶ方に来ていただきたいと思っています。
「やることがはっきりしないと不安だし仕事ができない」という方ではなく「自由にやらせてもらえるんですか、それはラッキーです」と言える方が向いていますね。
ゼロ次面接について教えてください
私たちは面接前の面談を実施しており、「ゼロ次面接」と呼んでいます。実施目的はミスマッチを防ぐことです。
そのためにゼロ次面接は私たちを選んでもらう気持ちで臨んでいます。私たちが求めるスキルやマインドと、人生をかけて転職して来られる方が求めることが違うと入社してからお互いに不幸になるので、それだけは避けたいです。
求人票に書かれた情報を読むだけでは、解釈が違って、実際の仕事内容と乖離することがあります。だから、会社のこと、仕事内容、求めるスキルやマインドなどについて詳細に説明しています。大きな組織でしたら、この仕事は向かないからと別の部署に異動してもらうことができますが、当社の規模では仕事が合わないと辞めてもらうしかありません。
ミスマッチを避けるために「ゼロ時面接」は重要な役割を担っています。
実際に働かれている開発担当の方にも話を伺いました。
前職では何をされていましたか?
介護機器の開発をしておりました。
新規事業の立ち上げを経験し、市場調査・製品開発・販売までチーム5人体制で実施しておりました。
入社された経緯をお教えください。
入社したのは6年前です。当時はイシダの中の一事業部でした。
私の職務経歴書を國崎代表に見ていただきました。
面接では自己アピールをしようと持っていたのですが、実際は國崎さんから事業内容プレゼンを受けました。その熱意に惚れて入社を決意しましたね。
入社してから印象的だったことはありますか?
思い入れがあるのはやはり、排尿計測記録システムですね。
企画の段階から自分で立ち上げ、滋賀医大をはじめ、様々な病院の看護師さんたちに話を聞きに行ってニーズ調査をしました。そこから今も開発に携わっています。
國崎様に伺います。転職を検討されている方へのメッセージをお願いします
イシダメディカルはイシダからスピンオフして設立された会社でまだ一年生です。これから私たちは医療機器の世界で、医療従事者の方々を私たちの力で楽にして、患者さんをもっと健康にしていきたい、そんなミッションとビジョンを掲げている会社です。
私たちの考え方や思いを共有して、一緒に事業を大きくしてくれる人を求めています。
スタートアップの創業メンバーとして共に仕事をしてくれる人を求めているので、「我こそは」という人はぜひチャレンジして欲しいと思っています。
「どんな仕事を求められますか」という質問には「どんな仕事が求められるかも含めて一緒に考えてほしい」とお答えしています。その回答に対して「仕事を見つけに行けるのは面白い」と感じられる方はぜひご応募ください。
05. 取材を終えて
今回、國崎様のお話を聞かせて頂き、國崎様の「イシダメディカル社」を通じて「医療従事者の方々を楽にしたい」という強い情熱を感じました。設立に至るまでの、ドラマのようなストーリー、大勢の人の協力・想いがあっての現在のイシダメディカル社があると感じました。
また、実際に開発者の方ともお話いたしましたが、イキイキと開発に打ち込まれておられ、非常にやりがいのある開発環境・内容であることが伝わってきました。アメリカを中心に事業も拡大していくといった魅力的なフェーズの企業様ですので、「チャレンジ精神」が旺盛な方をご紹介させていただきたいと感じました。